乳がん治療の記録【22】乳房再建をしないと決める
形成外科からの帰宅後、乳房の同時再建をするかどうかについて、全摘をされた乳がんの先輩Yさんにも相談しました。
「自分はしなかったけど、7~8年ごとに中身を入れ替えるって意外とめんどうなものなのね・・・」
とYさんは驚いていました。そして
「うん、しなくていいよ!グラビアアイドルじゃないんだから!お胸がなくてもあなたには変わりないから大丈夫!」
とおっしゃいました。
「・・・たしかにグラビアアイドルではないですね!」と私は思わず笑いました。
ぺたんこお胸を愛せるかしら。愛したいわ。
同時再建はしないことにしました。
乳がん治療の記録【21】形成外科で同時再建について聞く
形成外科(美容外科)を訪れました。乳房の全摘と同時に再建をする場合、手術は全摘担当の先生と再建担当の先生で行われるそうです。この日は後者の形成外科の先生とお話をします。
先生はお医者さんというより芸術家みたいな雰囲気でした。患者の不安や悲しみに寄り添うというよりかは、美を追究し、こだわりを持ち、意欲的に新たな作品を作るようなタイプに感じられました。少し冷たくも見えましたが、しかしそれだけにいい作品を、つまり違和感のない元通りの乳房を作ってくださりそうだなとも思いました。
再建の方法は、まず全摘後に皮膚の下に風船のようなものを入れます。退院後、一ヶ月ごとに通院し、その風船に注射器で少しずつ水を入れていきます。風船をふくらませて、皮膚を伸ばしていくのです。
そして半年後、皮膚が十分に伸びたら風船を取り出し、かわりにぷよぷよしたインプラントの詰め物を入れる手術をします(自分のお腹や背中の脂肪を切り取って詰めることもできます)。
入院は全摘のみですと1週間ですが、再建もするとなると2週間になります。また、インプラントは7~8年ごとに入れ替えをせねばならず、手術のために1週間~10日ほど入院する必要があるそうです。
「は~、めんどくさいな~」と私の十八番が出ました。今後の人生でそうちょくちょく入院・手術を繰り返さないといけないのはめんどうです。また、もしインプラントが破れたりしたら緊急に手術することにもなります。仕事が忙しい時期にそんなことになったら、周囲にとても迷惑がかかりそうです。
同時再建をするかどうかは一ヶ月ほど考えてみていいことになりました。
ちなみに豊胸をしている方も同じように定期的な詰め物の入れ替えの手術が必要です。「こんなにめんどうなことをやっておられるなんて、豊胸をしている方はとてもがんばり屋さんだったんだな」とリスペクトする気持ちが生まれました。
乳がん治療の記録【20】遺伝子検査とは/予防切除手術とは
「“遺伝子検査”をするかどうか考えておいてください」
先生がおっしゃいました。
乳がん患者さんの5~10%は遺伝性の乳がんによるものなのだそうです。自分がそうであるかどうかは、血液を採って遺伝子検査をしてもらえばわかります。検査に20万円もかかっていた費用は2018年から保険がきくようになり、7万円でできるようになりました(それでも気軽に出せる値段ではないですが・・・)。
結果がプラスですと、両方の乳房が乳がんになりやすかったり、卵巣がんにもなりやすかったりするそうです。
プラスだったハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーは、がんが発症する前に乳房と卵巣を切除する手術(予防的切除)をして話題になりました。日本では2020年から予防切除手術にも保険がきくようになりました(ただし、乳がんか卵巣がんにかかったことがある人のみ)。
私も、母と叔母と祖母が乳がんになっているので、遺伝の可能性がありそうです。そして卵巣がんは検診では見つかりにくいのだそうです。
遺伝子検査をするかどうか・・・。
しかし、値段も高いですし、もしプラスだったとしても、まだがんがないものを切除することに抵抗がないわけではなく、不安はありつつも、ひとまず今回は保留することにしました。
乳がん治療の記録【19】マンモグラフィについて
「乳がんの検診に使われるレントゲンの機械“マンモグラフィ”は、10代・20代では被ばくのリスクが高く、乳がんの原因にもなりかねない」と、ある先生がインタビューでこたえていました。
母が乳がんになったのは私が18歳の時で、その年から私は毎年、律儀に検診を受けていました。インタビューを読み、「そんなリスクのことなどみじんも気づかず、なんて自分は愚かだったのだろう」と後悔をしました。また「なぜ当時、検診の先生は何も言ってくれなかったのだろう」とも。検診によってかえって乳がんになってしまったのだとしたらおかしな話です。
とは言え、マンモグラフィ検診の被ばく量は、飛行機でアメリカまで移動した間に浴びる量とそう変わらないそうです。
若いうちは、乳がん検診では超音波の検査だけでいいとも言われますが、しかし20代で乳がんになってしまう人もいますから、被ばくのデメリットよりもメリットを選んだほうがいい場合もありそうです。
乳がん治療の記録【18】乳がんになった原因探し
「原因探しをしてしまうのは自然な流れ」と看護師さんはおっしゃいます。やめようと思っても、むずかしいです。ある程度、気が済むまでやってもいいのではないかと私は思います。原因探しをし尽くしたらやっと次に行ける、というタイプの人もいるでしょう。
私はまずストレスが原因ではないかと疑いました。私は子どものころから、親から暴言を吐かれたり、理不尽な扱いをされたりしてきました。大人になってからも心の傷が癒えず、さまざまな心の病も経てきました。そういったものの積み重ねでなったのではないかと思いました。
また、乳がんは女性ホルモンによる影響が大きいと言われます。かつて摂食障害や神経性胃炎になった時に生理が止まり、女性ホルモンの注射を定期的に受けていました。
他にも、若いうちから乳がん検診でレントゲンを受けていたからかなとか、デスクワークで運動不足だったからかなとか、いろいろ考えました。また母と叔母と祖母が乳がんになっているので遺伝もありそうです。
ちなみにネットには「パンを食べると乳がんになる」「牛乳を飲むと・・・」「大豆を食べると・・・」など、たくさんの説が出てきます。うそかほんとかはわかりせまんが、心がまいっている時などは振り回されて立ち行かなくなりそうなので注意が必要です。
乳がん治療の記録【17】病気になるのは“負け”ではない
乳がんになったことと、入院・手術の日程などについて、各方面に伝えなければなりません。私はフリーランスで文筆業・挿絵業をしていますので、先方にスケジュールを調整していただく必要が出てくるからです。また場合によっては、代わりの方にお願いすることもあるかもしれません。
先方にお伝えすると驚かれましたが、入院中や手術直後にゆっくりできるようスケジュールを前倒しして下さるなどご配慮いただきました。ご迷惑をかけて申し訳なく思いつつも、感謝の気持ちでいっぱいです。
また、友人・知人にも伝えました。頻繁に会ったり連絡をとったりしているのに、何も言わなかったりごまかしたりすることが私にはできません。みんな、心配や共感、励ましやお祈りをしてくれました。また病気や病院についての情報やアドバイスもくれました。優しさに触れて、涙が出ます。
母は自身が乳がんになった時、それを他人に隠していました。病気になったことを“負け”と感じたのでしょうか。彼女は昔から「他人の不幸は蜜の味。みんな、ひとの不幸を面白がっている」と言っていました。だから自分が病気になったら、他人がほくそ笑むと思っているのでしょう。
病気になるのは残念ではあるけれど、“負け”になるわけではありません。少なくとも私の知人・友人で、病気になったと聞かされて勝ち誇る人など皆無でしょう。
病気になったことをアピールすることはないけれど、日頃から付き合っている人には伝えたほうがいいと感じます。伝えないことで不信感を抱かせたり、不誠実な印象を与えてしまったりすることのほうが私は嫌です。
乳がん治療の記録【16】がん保険について
母が乳がんになったのは私が18歳でしたが、その時に“がん保険”に入りました。25年間以上、毎月保険料を支払ってきましたが、ついに利用する時が来ました。本当は利用しないにこしたことはなかったのですが・・・。
ちょうど一年前に保険の見直しもしていたので、最新のがん治療の状況にも見合っているはずです。早速保険会社に電話をしました。担当の方はおっしゃいました。
「まずは、この度のご病気については心よりお見舞い申し上げます」
「あ、はい・・・。ええと、ありがとうございます・・・?」
思えばこのタイプの言葉をかけられたのは初めてなので、なんて答えていいのかわからずあたふたとしましたが、はたしてこれで合っているのでしょうか。
保険会社からは、お医者さんに書いていただく診断書と私が書く書類の2通が送られてくるそうです。それを記入して提出すれば、相応のお金をいただけるそうです。
私の入っているがん保険では、手術は20万円、入院は1日につき5000円をいただけるそうですので、それらにかかるぶんのお金は十分にまかなえそうです(余るくらいです)。
制度や保険のことを知ると、病気になっても社会に守ってもらえているような感覚を得ます。「寂しくなんかないねー」と安心感をおぼえました。
乳がん治療の記録【15】高額療養費制度について
全ての人が安心して医療を受けられるようにするための制度があることを私は初めて知りました。“高額療養費制度”です。患者さんの医療にかかる一ヶ月の金額に上限を設け、それ以上は払わないでもOKにしてくれる制度です。
上限額は年齢や年収によってまちまちですが、例えば65歳以下の人で年収が300万円の人なら、手術(保険対象内)に100万円かかったとしても、6万円ほど払えばよいことになります。支払いの際に病院の窓口で“限度額適用認定証”を提示します。
この認定証をいただくため、早速市役所の保険年金課に電話をしました。保険証の番号を伝えると「近日中に発送しますね」と職員の方はおっしゃいました。
届いた認定証は画用紙を三つ折りにしたような簡素なものでした。DMと間違えてうっかり捨ててしまいそう・・・。保管場所には気をつけなければと思いました。
乳がん治療の記録【14】若くて健康な子たち
乳がんと言われた日の数日後、母校の中学・高校の学園祭がありました。今年は生徒たちのダンスや演劇、演奏などの発表をオンラインで見ることができました。同級生たちとLINEで「上手だね」「すごいね」などと言いながら見るのはとても楽しかったです。
若い子たちががんばっている姿を見て、「できることをできるうちにたくさんやってほしいな」と心から思いました。30代や40代になったら病気になることもあるかもしれない。若くて健康な時間は長くはない。だから泣いたり笑ったり、努力したりくじけたりして充実した毎日を過ごしてほしいと思いました。私には子どもはいませんが、もしいたら、そのためにも惜しみないサポートをせずにはいられなくなるだろうと感じました。そして世の中のほとんどの母親は、そう思って子どもを日々サポートしているのだと最近わかってきました。
私の母は、若かったころの私に対して、そんな思いをひとかけらも持ってくれませんでした。自分が楽することばかりを考え、自分が楽しいことばかりをしていました。
「なんであたしがしなくちゃいけないのよ!」
ご飯を作る、洗濯をする、掃除をする、そういったことをまともにしませんでした。いずれも長続きしない習い事や一日限りの関心事にばかり目が向いていました。
「そんなの自分でやってよ!」
学校で必要なものを買い揃える、学校から渡された書類にサインをする、それすらめんどうくさがりました。寝っ転がってテレビを見ている母の背中ばかりが私には思い出されます。
しかしそんな親のもとで育ちながらも、私がこんなふうに若い子たちの幸せを願うことができる大人になれたのは奇跡ではないかと自分のことながら思います。
LINEで同級生の一人が言いました。
「私たちだって今が一番若いんだよ。やりたいことをやれるうちにやろう!」
「そうだね!」
乳がん治療の記録【13】セカンドオピニオンとは/標準治療とは
“セカンドオピニオン”とは他の病院にも意見をうかがってみることです。「診断は正しいと思うか」「手術の方法はどう思うか」「こちらの病院だったらもっといい治療がないか」などをうかがいます。大きな病院にはセカンドオピニオン外来もあります。そこに行くには最初の病院に紹介状や検査結果のデータなどを用意してもらう必要があります(料金は数千円です)。
私は診ていただいている先生や病院に不信感も不満もありませんでした。しかし「手術したくない。全摘したくない。しなくちゃだめだろうか」という気持ちは消えませんでした。とはいえセカンドオピニオンを受ける料金は、保険がきかないため高いです。2万円とか3万円とかです。
そこで私は乳がん検診をしてもらっていたクリニックにもう一度行きました。そして先生に言いました。
「紹介してくださった病院で検査をしていただいたら非浸潤がんであることがわかりました。先生、手術しなくちゃいけないでしょうか。全摘しなくちゃいけないでしょうか」
すると先生は言いました。
「手術で全摘してしまえば安心なんだからしたほうがいいでしょ~」
「いや、簡単におっしゃいますが、44年間連れ添った乳房がなくなるというのは寂しさもあるのです」
先生は「まぁね」と笑いました。
「日本乳癌学会のサイトに掲載されている“標準治療”というのは見た?」
「はい。“非浸潤がんで広がりが大きいものは全摘しないことをすすめられない”と書いてありました。」
「標準治療というのは長年の治療や研究から導き出されたものだから、それが一番信頼できて、一番いい方法だよ」
「そのようですね」
「それに、紹介した病院は乳がん治療にとても力を入れている。この付近の良いお医者さんが集まっている病院だから、先生の判断や腕を信じて大丈夫!」
納得のいくセカンドオピニオンをいただけました。治療に対して前向きに取り組む気持ちになりました。そしてかかったお金は1050円の診察代だけ。優しい先生です。