考えるつゆくさ

毒親の問題などについての考えをつづります。また、乳がん治療の記録も綴っています。

乳がん治療の記録【44】シバリング(全身麻酔後の体の震え)について

手術は室温の低い部屋で行われているそうです。患者は裸なので、どうしても体は冷えてしまいます。特に足や手などの末梢は冷たくなりやすいです。本来なら体が冷えると自身の体温調節機能が働きますが、全身麻酔によりその機能は停止中。

なので手術が終わると、体は元の体温に戻そうとして一気に奮闘し出します。体を震えさせることで発熱させようとします。発熱させると酸素もそれだけ必要になるので、呼吸が苦しくなります。

シバリングが起こっている時にかけられた電気毛布は暑く感じましたが、やはり必要なアイテムのようです。すごく暑いけれど、すごく寒い。それはそのせいなのです。

もともと冷え性な人、特に抹消が冷えやすい人、また、乗り物酔いしやすい人、そして女性のほうがこういった麻酔後の反応が出やすいとのこと。私は全て該当・・・。

朝日のまぶしさに目を開けると手術が終わっていた、というのはドラマの話のようです。同性の友人たちに聞くと、「私もガタガタ震えた」「気持ち悪くなった」「吐いた」という声が多かったです。

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朝日で目覚めるは都市伝説

 

乳がん治療の記録【43】立つ、そして食べる

早朝、まだ暗かったのですが、懐中電灯を持った看護師さんが来て下さり、カテーテルがはずれました。私をベッドに拘束するものがやっととれました。

看護師さんに支えられながら、ゆっくりと起き上がりました。18時間ぶりに立ちます。余裕で立てました。朝はおかゆです。36時間ぶりの食事です。

隣のベッドのMさんと昨夜について、「腰が痛かったですね」「寝返りもできずしんどかったですね」と気持ちを分かち合いました。隣室のSさんにも廊下でお会いし、「長い夜でしたね」と言うと、深くうなずいておられました。

午後には点滴もはずれました。管がささっていたところが小さなあざになっていましたが、Mさんは大きなあざになっていました。「これをさした麻酔科の先生がチャラくて、さすのも下手だった」らしいです。どれくらいチャラかったのか気になります。

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朝がゆ

 

乳がん治療の記録【42】絶対安静の長い長い夜

手術が終わったのは夕方で、これから絶対安静の夜が始まります。寝返りすらできません。精神的にもつらいけれど、腰も痛くなるし背中も凝るしで身体的にもとてもつらいです。寝たきりの生活というのはこうことなのだなと身をもって知りました。

隣のベッドのMさんの「痛い~」「は~」というつぶやきが断続的に聞こえます。けれど寝息も聞こえます。私は一睡もできませんでした。

2時間おきに看護師さんが様子を見に来て、点滴を変えたりして下さります。忘れずに来て下さるのがありがたいです。点滴は吐き気止め、痛み止め、抗菌剤、栄養剤などを次々としているとのこと。これだけしたらお小水がすごそうですが、カテーテルなるもので自動排出されているらしいです。

ウォークマンでラジオを聴きました。いっぱいつながれている管にイヤホンのコードがからみます。無線にするべきだったか・・・。ラジオを聴きながら、あと何時間で朝になるかを逆算しながら過ごしました。

「まだ9時。あと9時間か・・・」
「深夜ラジオが始まった。0時か・・・」
「そろそろ3時かな。いや、まだ2時だ・・・」
「早朝ラジオが始まった。もうすぐ・・・」
「外はまだ暗い。早く明るくなれ・・・」

動けるってありがたい、寝返りできることすら尊い。そんなあたりまえのことを知った長い長い夜でした。

 

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コードがからむ

 

乳がん治療の記録【41】不安を感じさせる呪い

手術後のシバリング(全身の震え)もおさまってきたものの、心はパニックのままでした。

そうだ、私はもともとメンタルが弱かった・・・。いくつもの管でつながれてベッドに拘束されていることにも不安を感じ始めました。

火事や地震やテロが起きたらどうしよう・・・。殺人鬼が来たらひとたまりもないよね・・・。無理に走ったら傷口はどうなってしまうの・・・。また過呼吸が起こりそう・・・。

巡回にいらした看護師さんに弱々しい声で不安を伝えました。「大丈夫ですよ」と看護師さんはおっしゃりました。少しあきれているようでしたが、確信のある「大丈夫ですよ」に、大丈夫な気がして落ち着いてきました。

もし母親が、幼いころから私に「大丈夫だよ」と言ってくれる人だったら、私はこんなに不安を感じやすい人にはならなかったのではないかとよく思います。「どうなるかわからないよ!」「どうせだめになる!」と醜い顔で脅してばかりの母親だったから、私はこんなふうになってしまったんだろうと感じます。

入院前に近所の方が「あなたは強い人よ」と励まして下さったことをふと思い出しました。

「私は強い・・・」「大丈夫・・・」

天井を見ながら何度も心の中でつぶやきました。

ポジティブな言葉だけで、不思議と人は強くなれるし困難を乗り越えていけます。ネガティブな言葉だけで、いとも簡単に人はもろくなり崩れてしまいます。

母親がなぜ呪いのようにネガティブな言葉ばかりを浴びせかけたのか、大人になった今も、私はずっとずっと考えています。

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乳がん治療の記録【40】手術直後/シバリング

乳がんの全摘手術の麻酔から覚めて最初に感じたことは「気持ち悪い」でした。そして見えたものは、乗せられたストレッチャーから見上げた先生方のお顔でした。

「気持ち悪い・・・」としぼりだすように言いました。ストレッチャーで右に左に走らされるとさらに酔います。「病室で吐き気止めの点滴をしますからね」と聞こえました。「シバリングが起きてる」という声も。

シバリング?体がすごい震えているけど、もしかしてこれがシバリング?英語で表記すると・・・Shivering?あぁ、きっとそうだ。たしかにShiverしてる、ひどくShiverしてる・・・。

電気毛布をかけられました。暑い!でも全身が冷えきっていて震えます。寒い!どっち??

呼吸が苦しくて、汗がとまりません。酸素マスクがつけられました。手足がガタガタと揺れ、歯はカタカタと音が鳴ります。パニックです。そしてなにより気持ちが悪い。去ろうとする看護師さんに「ここにいて下さい」と思わず泣きつきました。

枕元に置いて下さっていた桶に顔だけ横を向いて吐きました。絶食しているので胃液しか出ませんでしたが、吐いたら気持ち悪さがなくなりました。シバリングもおさまってきました。

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暑くて寒い

 

乳がん治療の記録【39】左乳房全摘手術

同室のMさんが私よりも先に手術です。Mさんは昨日も今朝もとてものんびり構えていらしたのに、手術に呼ばれる5分前になって急に「どうしよう!緊張してきちゃった!」とあわて出したのがちょっと可笑しかったです。「がんばって!」とお見送りしました。

知人・友人たちからLINEが届きます。この病院の方向に向かって祈りを送ってくれているそうです。私はそれらをキャッチしました。

看護師さんが迎えに来て下さり、徒歩で手術室へ向かいました。手術室は機械がいっぱいあって、近未来の宇宙船内のようでした。

なまぬるい台の上に横たわりました。ゼリーのような柔らかい輪っかの枕に頭を乗せました。右手に点滴が刺され、麻酔科の先生がもくもくと煙が出るマスクを口の前にかざすと・・・意識がなくなりました。

と思いきや、ふと、また意識が戻りました。数人の先生方が青い手袋や手術着を身に付けているところでした。「み、見えているんですけど・・・」と言いたいが言えません。焦っているうちにまた意識がなくなりました。

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ドーナツ型のやわらか枕

 

乳がん治療の記録【38】手術当日の女子会

今日は手術です。さようなら、左胸。寂しいです。44年間いっしょに生きてきたので。でもここにがんがあるのはもっと嫌です。

500mlのペットボトルの経口補水液を2本渡されました。今日の食事はこれのみです。

同室の4人と病室の中心に集まっておしゃべりしました。60代のDさんは今日退院されます。同じ日に手術を受けた方々はすでに退院され、ひとりだけ入院が長引かれていたそうです。手術した箇所には血液やリンパ液などを排水するために管(ドレーン)がさされるのですが、その排水がなかなか終わらなかったのだそうです。

Kさんが「ドレーンの量は胸の大きさに比例するようですよ」とおっしゃっていて、たしかにDさんは胸が大きい方でした。「じゃあ、私は胸が小さいからすぐ終わる!」「私も!」「私もだ!」などと言ったりして、みんなで笑いました。

Dさんが退院されると、次にNさんという20代の女性が入院して来られました。手術前に抗がん剤をされたようで、ピンク色のふわふわのかわいい帽子がよく似合っていました。ご本人もほんわかとしたかわいらしい方でした。

乳がんになる人は優しくてかわいらしくていい人ばかりなんだわ」と自分に都合良く定義づけをしてみました。

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ドレーンで排水

 

乳がん治療の記録【37】全身麻酔とはそういうもの

Kさんが手術を終えて戻って来ました。数時間前まで明るくしゃべっていたのに、意識朦朧としてベッドに横たわってぐったりしていました。

のどが渇いていないかな、気持ち悪くないかな、痛くないかな、と心配になりました。全摘をした胸を見たらどう思うかな、とも・・・。

Kさんは今晩は絶対安静で、ベッドから一歩も動けないばかりか、寝返りもほとんどできない状態です。つらかろう・・・と胸が痛くなりました。とはいえ明日はわが身。また気持ちが落ち込んできました。

お医者さんをしている友人から「全身麻酔ってそういうものだし、そのほうが体は楽なんだよ」とLINEが届きました。たしかにそうなのかも。そしてKさんは少しずつおしゃべりができるようになってきました。ほっとしました。

就寝時間は9時です。眠れません。窓際のベッドでしたので、ブラインドの隙間から月が見えました。深夜ラジオを聴いて、早朝ラジオも聴いて、少しだけうとうとして朝になりました。

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隙間から月

 

乳がん治療の記録【36】かっこいい核医学検査

同室のKさんが手術へ行かれます。看護師さんといっしょに徒歩で向かいます。医療系ドラマでよく見るようなストレッチャーで運ばれるかんじではないようです。「がんばって!」とKさんのお見送りをしました。

 

核医学検査室にまた行き、大きな機械の下に横たわりました。3時間前に注射した、放射線を発する薬が流れ着いた先を写せるカメラで撮影します。これでリンパ節の位置が特定できるなんて、“核医学検査”というのは名前も内容もかっこいいです。関係ありませんが、撮影技師のお兄さんもかっこよかったです。

ちなみにその放射線を発する薬は自然に体外へ排出されるそうですし、そもそも明日の手術で、流れ着いた先のリンパ節は切り取られます。

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リンパ節の位置を特定

 

乳がん治療の記録【35】生検のための痛い注射

同じ明日手術のMさんとセンチネルパネル生検(リンパ節に転移があるかどうかを調べる検査)のための注射を受けに、核医学検査室なるかっこいい名前の検査室へ行きました。

この注射の薬は微量の放射線を発する物質で、それらが目的地であるリンパ節に3時間後くらいに流れ着くのだそうです。その時にまたこの検査室に来て、放射線をとらえるカメラで撮影をし、薬の位置、すなわちリンパ節の位置を特定するとのこと。“核医学検査”とはその薬を使った検査のことをさすようです。

しかし、その注射が非常に痛いと聞いています。乳輪に痛み止めの絆創膏を貼り、そこにさすらしいのですが、2、3秒とは言え、怖くて怖くてたまりません。でもMさんといっしょだから怖さは半減。さらに同じく明日手術の隣室のSさんという方も合流されたので3分の1です。

Mさんが「私が最初に行く!」と勇ましく検査室へ行かれました。Sさんと二人で廊下の椅子で待っていると、ほどなくして「痛ぁぁぁぁぁい!」という叫びが廊下に響きました。私たちは顔面蒼白となりました。

戻って来られるとMさんは涙目になりながらも「痛くないよ、全然痛くないよ、大丈夫だよ・・・」と優しい嘘をついて下さりました。「いや、叫び声がよく聞こえましたよ・・・」。

次は私です。「怖い怖い怖い」と看護師さんの手を握りながら目をつむりました。

全然痛くありませんでした。注射をしてくれた先生もめずらしがっていました。痛み止めが効きやすい体質だからかな。

Sさんも「叫ぶほどではなかったです」と涼しいお顔で戻って来られました。しかしMさんは「出産の時より痛かった」とおっしゃっていました。同室のKさんも「すごく痛かった」と。どうやら個人差があるようです。

それにしても、「怖いよ~」「痛いかな~」などとワーキャー言いながら注射に行くなんて、学生時代みたいで楽しかったです。

 

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廊下の椅子で待つ